【陽菜とハルナ】最終話 後日談

 

担任が予想したとおりニュースが流れると親戚を名乗る者たちが大量に現れた。
隠すことなく”金目当て”だと言ってくる者も居た。

事故を起こした未成年は、ある地方議員の息子だった。乗っていた5人が全員”上級国民”の子供だったのだ。ハルナは一時避難の為に担任の家に隠れることにした。学校にも誰にも言っていない。幸いなことに推薦で学校が決まっているので学校に行く必要は少ない。事情が事情なので、学校も無理に出席しなくてもいいと言っている。

陽菜の精神は安定した。
母親が残していた手紙が影響している。

母親は、担任とのこと知っていた。性奴隷のような扱いを受けているとは思っていなかったが、肉体関係にあることは解っていた。
それでも陽菜が望んでいるのなら・・・。と、黙認していたのだ。

卒業を控えて、母親は手紙をしたためていた。二通だ。
担任は手紙を見ていない。陽菜が読んで一昼夜泣き続けてから手紙を自分の机にしまった。

陽菜は自分に言い聞かせるように母親の墓前に手を合わせる。

「もう大丈夫!」

宣伝するような声で母親に告げる。

担任は、母親の葬儀をするときに、母親の寝室から一通の手紙を見つけた。
宛名は書かれていなかったが内容は自分に向けての物だと判断した。

母親の真摯な気持ちが書かれていた。
担任の名前こと書かれていないが内容は娘との関係を言及するものだった。”認める”とも”認めない”とも取れる内容だ。ただ、”娘を裏切らないで欲しい”と書かれていた。母親の経験が綴られている。母親の半生を読んだ時に胸が締め付けられるように感じた。いくつかの頼み事が書かれていた。

担任は信頼できる人間弁護士に相談した。
法律が絡んでくることも書かれていたからだ。

家の権利を陽菜に変更する。

担任は、学校に休暇届を出そうとしたが、陽菜に止めてほしいと言われた。弁護士からも学校に行けと言われた。理由を聞いて納得した担任は、名義変更や保険に関すること、厄介事のすべてを弁護士に丸投げした。陽菜が望んだことだ。

「忙しくしていないと壊れそう」

陽菜が担任に向けた言葉だ。
担任にも覚えがある。今は、陽菜が自分で立ち直らないとダメだ。”娘を裏切らないで欲しい”という願いは必ず叶える。
16歳下の女性を見捨てるつもりはなかった。

陽菜は名字を変えた。
弁護士からの提案だった。マスコミが事故のことを調べて報道した。被害者になってしまった陽菜の母親のことも報じてしまったのだ。弁護士は、そうなることが解っていたのだろう。陽菜が住む場所を担任に用意させていた。簡単に言えば、担任の家だ。名字を変えて、施設に入って、すぐに退所手続きを行う。退所後に、弁護士が所有する部屋で過ごしてから、弁護士が後見人になる。

卒業式には、陽菜は元の名前で出席した。
正面を見て涙を見せないように振る舞っている姿は一人の女性だ。

友達との別れを済ませた。住む場所や連絡先は変えていない。スマホが知り合い以外からの着信を切っていることやSNSをすべて辞めたことを告げただけだ。

「母親と生活した街は思い出が詰まっているから辛い」

陽菜が友達に告げた言葉だ。

高校への入学式には後見人の弁護士が出席した。
陽菜の母親への慰謝料と母親が残した遺産が依頼料となる。最初は、担任が支払うと言ったのだが、陽菜が”自分のことだから自分で払う”と決めたのだ。

商業高校の情報処理科を、陽菜は優秀な成績で卒業した。
コーチ陣が素晴らしかった。弁護士が伝手で集めてきた現役のシステムエンジニアやプログラマにわからないことを教えさせたのだ。対価は食事だったらしいのだが、跡で聞いたら担任の同級生らしいのだ。夜に、散々からかわれたと愚痴った。勉強は担任が教えていた。商業に関する授業はわからない場所も有ったのだが教科書を二人で読んでいると教えることができなくてもヒントになるようなことは解るようになってきたからだ。

二人の関係は続いた。
家族のように、恋人のように、そして主人と奴隷としての関係も続いた。ハルナが望んだからだ。

高校を卒業した陽菜は大学に進んだ。
担任の家から通える大学だ。バイトもした。慎ましやかな生活なら陽菜はバイトをしなくても生活できるのだが、後見人となっている弁護士からバイトを進められた。弁護士事務所でのデータ入力や整理の仕事だ。弁護士も信頼できる事務が欲しかったので丁度よかった。

陽菜の高校卒業と時期を同じくして担任は教師を辞めた。

担任は塾をオープンさせた。
元教師の塾として生活に困らないくらいの収入が得られる算段ができたのだ。それだけではなく、同級生を招いて小中学生にプログラムを教える場所も提供した。中高年向けのパソコン教室と一緒に開いた。
陽菜は、バイトと同時に塾の講師としてのバイトも始めた。

そして、陽菜が22歳。担任が38歳のときに二人は結婚した。

披露宴は行わない。
式には、弁護士や同級生が出席した。陽菜の高校や大学の同級生やバイトの関係者を招いた。少人数だが暖かな式だ。

一番遠い場所だが式全体が見える場所に小さなテーブルが置かれている。
そこには遺影となる写真が一つと遺影の写真を見る一人の男性が座っている。新郎と弁護士しか知らない人物だ。

式が終わり、新郎新婦が挨拶をする。
離れて座っていた男性の姿はもうなかった。複数置いてあった遺影の一つを胸ポケットにしまって立ち上がって出ていったのを新郎だけが見ていたのだ。

男性は、新郎に向かって頭を下げた。そして、男性が頭を下げた場所には床を濡らしたような跡が残されていた。

「ねぇあなた?」

「なんだ?陽菜?」

「ママと一緒に座っていたの、あなたの知り合い?」

「そうだな。遠い知り合いで、すごく世話になった人だ」

「えぇ!それなら、私・・・。挨拶しなかったけど・・・。大丈夫?」

「大丈夫だよ。陽菜。心配なら手紙を書くか?」

「いいの?」

「そうだね。お母さんとの思い出を書いて自慢してあげるといいよ」

「わかった!でも、ママとの思い出なんかでいいの?あなたとの思い出のほうが・・・」

「奥さん?俺との思い出?何が書ける?」

「えぇ・・・と・・・。そうだね。ママとの思い出にしておく。あなたとの思い出だと誰にも言えないことしかなくて困る」

「そうだね。でも、これから一緒だよ。思い出は、今から作っていけばいい」

「そうだね。それにしても、あなたの同級生は濃い人が多いね」

「あ!アイツら、何か言っていたか?陽菜。いいか、ヤツらの話は信じないようにしなさい」

「はぁーい。あなたが小学校の頃に先生が嫌いなみかんを無理やり食べさせようとしたこととか、寒中水泳がいやで前の日に裸で遊んで風邪をひこうとしたこととか、隣の中学と大喧嘩になったときに作戦立案・実行に活躍したとか、暴走族と喧嘩して族を一つ潰したとか・・・。忘れることにします」

「アイツら・・・。余計なことを・・・」

「でも、よく先生になろうとしたね?」

「そういうことをアイツらは話さなかったのか?」

「うん。旦那に聞けと言って教えてくれなかった」

「そうか・・・」

「おしえて?私のことは、私以上に知っているのに、不公平だよ?」

「いいけど、面白い話じゃないぞ?」

「いいよ。教えて・・・ほしい・・・です」

「そうだよな・・・。わかった・・・。あれは・・・」

長い長い夫婦の話をした。

翌日、陽菜は約束通りに母親との思い出や父親が居なくて寂しかったけど母親が沢山愛してくれたから大丈夫だったと締めくくった手紙を書いた。
締めくくりは、母親の名前と自分の名前を書いた。

最後に手紙の最初に”パパへ”と書いて封筒に入れた。