【彩の目覚め】第八話 後輩の部屋
風呂から出た。
彩をいつまでも全裸にしておけない。主に、俺の精神力の減退が問題だ。襲わないように押さえつけている精神力が、限界になってきている。自分の感情を認識してからは、我慢が難しくなってきている。
「彩。これを着てくれるか?」
「これ・・・。ですか?」
七分袖のTシャツと短パンを渡す。パンツを渡そうとしたけど、まだ持っていて欲しいと言われた。意味が解らないが、彩がそうして欲しいのなら、俺が持っていることにした。ストッキングだけは、”ストックがないから”という理由で、持って帰るようだ。
それなら、パンツも一緒に・・・。と、思ったけど、パンツは置いていきたいようだ。
七分袖のTシャツは思っていた以上に大きかった。乳首が目立たなくなるのはよかった。
短パンも、パンツを履かずに直接履いた。大きいようで半ズボンを通り越して、膝のところまで長さがある。ウエストもかなりの余裕がある。ゴムだけでは無理な様子で、紐で思いっきりしぼめないとずれて、下半身が・・・。実は、Tシャツでおしりまで隠れている。短パンが脱げても、いきなり見えてしまう事はない。
彩の長めになっている髪の毛にも理由があった。
お金の節約のためだと言っている。自分で切るのには、この位の長さがちょうどいいのだと言っていた。タオルドライで乾かしてから、傷まないように酢をすこしだけ塗っているようだ。洗濯も、コインランドリーを使っている。洗濯機を買うよりも安いらしい。水代とか、電気代を考えれば、コインランドリーは悪い考えではない。洗濯だけして、乾かすのは部屋に干せばいいと言っている。
彩の話を聞きながら、パソコンを操作する。
予約サイトから、ホテルを確認して予約した。今日のディナーと、一泊のセットだ。時計を見ると、いろいろギリギリだ。他にも、知人にメッセージを飛ばす。
「彩」
「はい?」
「本当に、俺の命令なら、なんでもするな?」
「はい!もちろんです!」
「よし、今から俺が着替える。そのあとで、彩の部屋に行くぞ」
「え?」
「いいな」
「はい」
スーツではなく、予約したホテルに合わせて、カジュアルな服装にする。フォーマルにする必要はないが、ノーネクタイはダメかもしれないから、カジュアルとフォーマルの中間くらいの服装にして、ネクタイをしてもおかしくないようにジャケットを羽織る。
「え?」
「おかしいか?」
「・・・。かっこいいです」
「そうか、彼女に褒められると嬉しいよ。ほら、彩。彩の部屋に行くぞ・・・。って、俺が入ってもいいのか?嫌なら、ここで待って」「嫌じゃないです!来てください!」
また、食い気味に宣言された。
俺が、彩の着てきたスーツを持つ。ストッキングは、恥ずかしそうに丸めて、Tシャツの中に隠した。
部屋のドアを開ける。廊下を見るが、誰もいない。
先に、彩を階段まで急がせる。それに、俺が続く形になる。
下の階でも、階段から廊下を見て、誰も居ないことを確認して、彩の部屋まで急いだ。部屋のロックは、指紋か顔認証で解除される。彩がロックを解除して、部屋に入る。
「ハハハ」
「どうした?」
「緊張しました・・・」
パンツも履いていないし、ノーブラだ。
「ん?」
「だって・・・。初めて、男の人を自分の部屋に・・・」
「そうなのか?」
「はい。施設に居た時には、一人部屋じゃなくて、女子だけですよ!でも、大学からは一人暮らしをしていたけど、先輩が初めてです。好きになったのも・・・。先輩が・・・」
「なに?彩?」
顔を真っ赤にしている。
「俺は、ここで待っているから、着替えなさい。Tシャツと短パンは、次にくるときに持ってきてくれればいい」
「え?」
「ん?」
「あっ。ぼく、また、先輩の部屋に?」
「来てくれないのか?」
「行っていいのですか?」
「もちろんだよ。後で、彩を登録するからな」
「!!」
本当に、嬉しそうな表情をする。
部屋も隣になるのだし、泊まりにくる必要はないだろうけど、”合鍵”を持つのは特別なのだろうか?
「あっ先輩。上がってください。ぼく、服・・・。少ないので、見てくれると・・・。今の、先輩に・・・。合わないかも・・・」
「それを心配していたのか?大丈夫だよ。まずは、普段着でいいぞ」
「え?」
「でも、お言葉に甘えて、彼女の部屋に入ってみようかな」
「うん!あっお茶とかないです。ごめんなさい」
「いいよ。それよりも、はやく着替えろよ」
「うん。先輩。見ていてくれますか?」
「わかった。見させてもらうよ」
「うん!」
彩の部屋は、女の子らしい・・・。部屋ではなかった。布団を畳んであって、他には無地のカーテンと、テーブルが一つだけだ。テーブルの上には、ノートパソコンが置かれている。クローゼットには、スーツの替えと冬用のスーツだろうか?あとは、夏冬の制服がある。長めのコートが一着あるだけだ。
私服らしい物は見当たらない。彩は、Tシャツと短パンを脱いだ。全裸の状態で、Tシャツと短パンを畳んだ。それから、ブラとパンツを取り出して身に着ける。かなり草臥れているように見えるのは、間違いではないだろう。
そんな彩の部屋の中で、目を引く場所がある。押し入れの下の段は、本がびっしり積まれている。プログラムの本だけではなく、推理小説やラノベや恋愛小説だ。ホラーもありそうだ。乱読なのだろう。気になった物を買っている印象がある。プログラムの本も、俺が勧めた本は揃っている。俺が、大学生の時に頼まれて執筆した物もある。連載をしていた時の雑誌まである。俺でも持っていないのに・・・。
頭の中で、今日のルートに修正を入れる。
財布の中身は大丈夫だ。ホテル代は、カードで支払ってある。食事もホテルの宿泊料に含まれている。ワインは、メールで彩の産まれた年の物で、ハーフロゼを用意してもらっている。
彩の部屋は、物が少ない。
キッチンもあまり使われている様子がない。
「彩。普段の食事は?」
「え?ご飯を炊いています」
「ん?」
炊飯器が見当たらない。
「あ!ご飯は、鍋で炊けるので、おかずは、お母さんたちが・・・。送ってくれた物で・・・」
「送ってもらった物?」
「はい。地元で取れる、干した魚とか、海苔とか、たまに貰ったシーチキンとか・・・」
「あぁそうか、彩の地元なら、こっちだと贅沢品だな」
「はい。スーパーに買い物に行ってびっくりしました」
「そうだろうな」
彩は、下着を身に着けながら話をする。
「あの・・・。先輩。服・・・。ぼく、これしか・・・」
彩が持ってきた服は、確かに・・・。私服には違いはないが、デートに出かけるような服ではない。そういえば、彩の経歴を思い出す。中学は、一般の中学だけど、高校は女子高だ。大学も女子大だったはずだ。
「彩」
「はい?」
「関係がないけど、高校と大学は?」
「あっ!高校は、推薦で入って、奨学金です。大学は、返済の必要がない奨学金制度を取得しました。成績が落とせなかったのですが、なんとかバイトだけで食いつなげました!」
「高校は?」
「あっ。大丈夫です。卒業して、学校に申請すれば、返済を待ってくれるので、来年から返そうと思っています。施設から通ったから、県と市からも助成が貰えたので、すこしだけで済みました」
やはり、奨学金制度を使っていたか・・・。当然といえば、当然だな。
本代を確保するために食費を削っているようだ。ご飯だけを食べれば、栄養は確保できるという考えなのだろう。
「服は、そうだな。これと、これでいいかな。スーツの時に着ている薄いピンクのシャツがあるよな?」
「え?あります」
「それに、このスカートを履いて、靴下は、ハイソックスでは高校生に見られそうだな・・・。無ければ、色が濃いストッキングかな。ニーソがあればいいけど・・・」
「・・・。先輩?」
「ん?」
「ハイソはないです。ニーソは大学の時に履いていた物が・・・。靴がなくて・・・」
「スニーカーはある?」
「あります」
「スニーカーなら変じゃない」
「シャツを着るのは?」
「Tシャツや手持ちでアレンジをするよりも、シャツを着崩したほうが可愛く見られる。髪型に拘りがなければ、左右で結ってもいいだろう。できなければ、俺がやってやる」
「え?先輩が?」
「あぁそうか・・・。俺には、姉が二人居た。高校の時とかに、よく手伝わされた」
「そうなのですね」
彩が納得してくれたところで、彩の手持ちの物でアレンジをしながら着替えをさせた。彩の部屋にも長居をしたかったが、我慢ができなくなりそうだし、予定を考えると、急いだほうがいいだろう。