【彩の目覚め】第十話 後輩の驚愕

   2021/12/08

彩の承諾が貰えた。

「あっそうだ。明日翔さん。質問というか疑問があるのですが?」

「なに?」

高速道路に乗った。エンジンの回転数が上がっていく、ミッションを変えながら、彩からの問いかけに答える。

「先輩の同期の人たちが、先輩には心に決めた人が居たと聞きましたが?」

「あぁその話か・・・。俺が、入社したときに、面倒な同期が居てな・・・」

その同期は、コンパが大好きだと公言するような奴だった。
俺は、コンパに興味がなかった。彼女もできたら嬉しいと思えるが、俺のことを調べられたら、また何も言わずに消えるに決まっていると、思っていた。それに、社員や近くの奴らとコンパをして、過去を知られるのも、俺は気にしないが、相手が気にし始めるだろう。
だから、コンパを避ける理由として・・・。

「そうなのですね」

「入社したばかりの頃、俺を心配して、よく会いに来た女が居た。それを、アイツが勝手に勘違いして、俺には心に決めた女が田舎にいることになっていた。自分でいうのもおかしいけど、同期では一番の出世頭だから嫉妬の意味もあるのだろう。いろいろ、悪い噂も聞いただろう?」

「え?あっ・・・。うん。せんぱ、明日翔さんが、冷酷で部下を切り捨てるとか、自分ができるから、他人も同じだと思っているとか、告白してきた女性を皆の目の前で叱責して辞めさせたとか・・・」

「おぉぉ。増えているな。まぁ気にしないし、そのおかげで楽な立場になれたから、利用されているとは思っていないだろうな」

「え?」

「もし、彩が・・・。ちょっと難しい質問だけど、会社の上層部だったとしよう」

「はい!あっ合宿の時にやったようなシミュレーションですか?」

「そうだな。彩は、会社の上層部だけど、トップではない。部署を3-4個まとめている人物で、配置換えの権限を持っている」

「はい」

会社の状況を説明する。
売り上げが上がっているが、儲かっているわけではない。しかし、会社として無くせない部署だ。そんな部署に、新しく部署を追加しなければならなくなった。それも、移動できる人員は少ない。少ないが、会社としては絶対に立ち上げなければならない。売り上げは期待できないから、中堅以上の人員を割り当てるわけにはいかない。

「・・・。はい」

「その時に、悪い噂がある人物だが、営業も開発もこなせる。候補のもう一人は、開発はトップクラスだが、客先の評判はあまりよくない。事務を下に見る風潮がある。前者なら、会社は営業の補佐と開発の補佐を付ければいい。なんなら新人でも問題はない。後者の人物だと、候補の人物と同等の営業を置く必要がある。さてどうする?」

「そんな・・・。状況だったのですね」

「あぁ。俺が選ばれるのが解るだろう?噂を流せば、俺が困ると思ったらしいけど、別に困らない。会社に居づらくなるのは、アイツだろうな」

「はい。それで、先輩はぼくを選んでくれた?」

「そうだな。営業の補佐もできるし、開発の補佐もできる。事務を任せても安心できる」

「嬉しいです。先輩の補佐ができているのですね」

「そうだな。これかは、私生活の補佐もお願いするぞ?大丈夫か?」

「もちろんです!任せてください!」

高速を降りた。
そこからは、すぐだ。

商業ビルがある。駐車場もある。

車を止めた。彩のシートベルトを外す。車に関しては、何も突っ込んでこないのはありがたい。

「ここは?」

「ん?とりあえず、ついてきてくれればいい。あっそうだ。今から向かう店だけど、店長と従業員はびっくりすると思う。先に謝っておく、すまん。耐えてくれ。腕やセンスは、抜群だ。ただ・・・」

「ただ?」

「変わっている。水族館にいる象やキリンを見るつもりで見てくれればいい」

「水族館の?」

「そう、水族館の象やキリンだ」

「はぁ・・・。わからないけど、わかりました」

「うん」

彩に承諾を貰えた、説明して解る奴らではない。
エレベータに乗る。目指すは、3階。地下2階の駐車場からだと距離がある。

ふぅ・・・。着いた。準備中の札が店の前に出ている。

奴ら・・・。

違う店にすべきだったか・・・。だけど、センスはこの店が一番だ。それに、俺にも都合がいい。

「アスカちゃん!待っていたわ!」

いきなり、後ろから抱き着かれた。

「隆司!お前、いきなり抱き着くな!何度も言わせるな!」

「アスカちゃん。私の名前は、キャサリンよ。隆司なんて呼ばないで!」

「脇をつねるな。気持ち悪い。昌平もいるのか?」

「昌平?誰?エリザベスちゃんなら、貴方からのメールを受けて、泣き出して大変だったのよ」

「っち。やはり、美穂の店の方が安全だったか・・・」

「やぁーん。あんな、女の店よりも、わたしたちの店の方が間違いはないわよ。あんな女の店に連れていったら、アスカちゃんのいい子がどんなに目にあうか・・・。こんなに、可愛い子をどこで捕まえたの?」

「いいから、店に行くぞ」

「はいはい。大事な姫君なのね。アスカちゃんが初めて連れてきた子だし、たっぷりとサービスしますよ」

「・・・。頼む」

彩を見るが、目を丸くしてびっくりしている。

「んもう。アスカちゃんから、頼むとか言われちゃった。私、我慢が無理だわ!アスカちゃん!!」

うるさくわめく、隆司をおいて、彩の肩に手を回して、昌平の店に向かう。
店は、準備中だが扉は開いた。

目的の店。「ブティック。エリザベス&キャサリン」という、ある意味、解りやすい名前が付けられている。服は手作りだ。下着は、提携しているところで作ってもらっているらしいが、デザインの大半は隆司が興している。昌平は彫金がメインだ。ヘアメイクや化粧もやっている。それは、別のスタッフがいる。会わなくて済むのなら、会いたいとも思えない。隆司と昌平の・・・。俺の大学の後輩らしいが、心当たりがある奴が一人だけいる。

もう、彩も解ったようだが、所謂「女性の恰好が好きな男性」ではなく、心が女性の男性だ。正式に、女性になったという話は聞いていないが、恋愛対象も男性のはずだ。心当たりがある奴は、大学の時に、俺に告白してきた。俺は、まだ家族のことを引きずっていた時で、その気はないとはっきりと断った。それでも、友達としてなら付き合うと言ったのが悪かった。それから、アイツの先輩で、同じ苦しみを持つ、隆司と昌平を紹介された。
よく4人でつるんでいた。そこに加わったのが、美穂だ。美穂は、反対に、男性の心を持つ女性で、恋愛対象は女性だ。それも、小さく可愛い髪の毛の長い女の子が好みだ。彩は、美穂の好みに”ド”ストライクだ。

「先輩・・・」

「あぁ簡単に言えば、この二人は、俺の先輩だ、変わっているが、悪い人たちじゃない。今日は、彩の服や下着を見繕ってもらおうと思って連れてきた。あと、今から連れていく場所に合わせて、髪型と化粧をしてもらおうと思って・・・な。予算は伝えてある。気持ち悪いと思うけど、我慢してくれ。本当に、気持ち悪いと思うけど、根はいい奴らだ。俺の話を聞いても、変わらず付き合ってくれている。数少ない友人だ」

「え・・・。あっ・・・。明日翔さん。わかりました。えぇーと。キャサリンさん。エリザベスさん。よろしくお願いします。ぼ・・・。私は、朝月彩。彩と書いて、さやと読みます。せ、明日翔さんの・・・。婚約者です。知らないことが多いですが、教えていただければ、嬉しいです」

「ん、まぁ可愛い。可愛い。アスカちゃん!」

隆司が、駆け寄ってきて、彩に抱き着こうとするのを阻止する。身長が190もある筋肉質の男に抱き着かれたら、彩が壊れてしまう。隆司が何か文句を言っているけど、無視する。俺の腕の中で、彩は、笑いをこらえている。自分の置かれた状況が面白いようだ。

彩に抱き着かない条件で、隆司に彩を預ける。
彩は、隆司に連れられて、店の奥に入っていく、大丈夫だとは思うが、大きな声で何かあれば、俺を呼べと伝えておく。