【彩の目覚め】第十一話 後輩の受難

   2021/12/20

昌平が、俺のところに寄ってきた。

「アスカちゃん。服と下着だけ?」

「ヘアメイクと化粧も頼みたい」

「それだけ?」

「あ?」

「アスカちゃん。言わないと、気持ちは伝わらないわよ」

「わかったよ。例の奴を頼む。俺は、サイズは変わっていないと思うけど」

「ダメ。測りなおすわよ」

「わかった」

「ふふふ。本当に使うことになるとわ、思わなかったわ」

「そうだな。冗談から始まった話だからな」

「そうね。彼女には伝えていないの?」

「あぁお前も言うなよ」

「言わないわよ。それに、この店は、本当なら、アスカちゃんのお店よ。本当にいいの?」

「あぁお前たちが使ってくれたら、俺も嬉しい」

この店が最初にオープンした時には、「アスカ&キャサリン&エリザベスの店」となっていた。俺が二人に出資した。実家の土地が、道路拡張で市に売れた。縁起が悪くて、塩漬けになっていた土地を、市が買い取ってくれたのだ。最初は、俺が探せなくて、一部だけ道路が通せない状況になっていた。地元のおせっかいな人が、俺を思い出して、当時の代理人を勤めてくれた弁護士に話が通って、俺に話が来た。考える必要もなく、売却した。予想以上の金額になって、弁護士に手数料を払っても、父親の生命保険の10倍近い金額が振り込まれた。
あぶく銭だし、金に困ってもいない。そして、あんな奴らが残した物だと思うと気持ちが悪くて、すぐに手放したくなった。寄付も考えたが、ちょうどその時に、隆司と昌平の二人が店を開きたいと駆け回っていた。そこに、俺が出資した。美穂もほぼ同じだ。3人に出資した。

「いいわ。彩ちゃんを可愛くしてあげる」

「そうだ。昌平」

「エ・リ・ザ・ベ・スよ」

「わかった。わかった。それで、昌平」

「んもう。なに?」

「彩の下着だけど、何組か送ってくれ」

「え?なんで?」

「うーん。彩にも事情があってな」

「わかったわ。1週間分でいい?」

「そうだな。職場は、スーツだから、それに合うようにしてくれ」

「わかったわ。デート用の下着も一緒に送っておくわ」

「そうだな。助かる。あと、何が必要なのか、俺には解らないから、昌平と隆司に任せる。それで・・・」

「あぁアスナちゃんなら、スタンバっているわよ。アスカちゃんが彼女を連れてくるって聞いて、気合を入れていたわよ」

「・・・。おい。アスナって・・・。やはり」

「そう、彼女よ」

「なんだかな・・・。それに、アスナって、どっかのアニメか?」

「違うわよ。本当は、”ナ”じゃなくて、愛おしい人と同じ名前を名乗りたかったみたいだけどね」

「昌平!」

「うそうそ。彼女も吹っ切れたみたいよ。でも、心は初恋の人に支配されているのはしょうがないわよね」

「なんだかな・・・。まぁ奴なら任せても大丈夫だな」

「そうね。彼女なら、彩ちゃんを可愛く、貴方好みにしてくれるわよ。貴方の手腕も知っているから、貴方がメンテナンスしやすいようにするわよ」

「わかった。わかった。それで料金は、予算では足りないだろう?いくらだ?」

「んもう。アスカちゃん。私たちからの、婚約祝いよ。結婚式にはいけないだろうから、このくらいはさせて、ね」

「わかった。でも、俺も彩も親類が居ない。式をやるにしても、出席者は仕事関係・・・。彩は違うかもしれないけど、だから、俺の友人でお前たちを呼ぶぞ」

「え?でも」

「気にするな。俺は、会社でも変わり者だと思われている。お!そうだ、昌平。時間は、どのくらい見ればいい?」

「そうね。2-3時間は欲しいわね」

「わかった。2時間で何とかしてくれ」

「了解。アスカちゃんの頼みだから、超特急で仕上げるわ」

「悪いな」

「いいわよ。先に、アスカちゃんのサイズを測るわよ」

「わかった」

サイズは変わっていなかったが、微調整が必要だと言われた。

昌平が店の奥に引っ込むと、店には俺だけが残る形になる。準備中の札が出ている。入口は、半分シャッターが降りている。店は、外から見えないようになっているから、のぞき込む通行人も居ない。そもそも、ビルの奥まった場所にある店だ。この店が目的でもない限りは、ここまで足を運ばないだろう。

「あれ?アスカ?なんで、ここに居るの?」

え?美穂?
一番、会いたくない奴だ。どうして?

ぼくは、朝月彩。急展開で、先輩・・・。明日翔さんの恋人になって、婚約者になった。
こんなことになるとは思っていなかった。一度だけ、先輩に抱かれて、それを思い出に・・・。頑張ろうと思っていた。

先輩の性の道具になれたら満足だった。
でも、気持ちを伝えてしまった。応えて貰えるとは思っていなかった。でも、先輩は・・・。ぼくのことを好きだと言ってくれた。それから、ううん。今の状況を確認しよう。

男性?キャサリンさんのお店に来て、服を着替えさせられている。それも、ものすごく可愛い服だ。値段が書かれていない。ぼくなんかが着ても似合いそうもない。でも、キャサリンさんは、嬉しそうに、何着も持ってくる。

「彩ちゃんは、どんな色が好き?」

「え?服ですか?」

「そう。あっちなみに、アスカちゃんは、センスはあるけど、自分用の服は黒か紺だから、隣に立つなら、同系色の明るい色か、薄い色がいいわよ」

「え?あっそうですね。先輩の横に・・・」

「あら、可愛い。真っ赤になって、カジュアルとフォーマルも用意するわね。アスカちゃんとデートする時の服とか、必要でしょ」

「・・・。うぅぅ。はい。でも、ぼく・・・。あまり、お金がなくて・・・。その・・・」

「そうね。今日は、私とエリザベスとアスナからのお祝い。婚約祝いね」

「え?」

「私とエリザベスとアスナは、アスカちゃんに救われたの・・・。彼は、気にするなって言っているけど、私たちは、アスカちゃんに返しきれない恩があるの、だから、彩ちゃん。私たちの為だと思って、今日は何も言わずに・・・。受け取って頂戴。お願い」

「え・・・。ぼく・・・。でも・・・」

「あら、隆司。それなら、私にも権利があるわよね?」

びっくりした。すごく綺麗な女性が、入ってきた。
表で、先輩が何か怒鳴っているが、”昌平!離せ!”と言っているから、エリザベスさんが、先輩を捕まえている?

「あなたが、アスカのいい人?」

「え?」

「私は、美穂。貴女の旦那に、返しきれない恩を受けた。女よ」

「え?え?先輩の彼女さん?」

「違う。違う。気持ち悪い。アスカには感謝しているけど、男と付き合うとか気持ち悪い。私は、貴女みたいな女の子が好き。アスカなんて辞めて、私と付き合わない」

「ダメです。ぼくは、明日翔さんが好きです!もう、明日翔さんの物です!」

「あらあら。振られちゃった」

「美穂、あんた、お店はいいの?」

「徹から、話を聞いて、店を閉めて来たわよ」

「・・・。アスナも、美穂に連絡をしなくても・・・」

「ダメよ。隆司も昌平も徹も、心は女かもしれないけど、身体は男だから、下着は無理でしょ」

「そうだけど・・・。貴女のところから、仕入れた物もあるから、大丈夫じゃないの?」

「ダメよ。しっかりフィッティングしないと、形が綺麗に見えないでしょ。それに、左右でも大きさも形も違うのよ」

「それは・・・」

「道具も持ってきたし、私ならこの場で調整ができるわよ」

「・・・。そうね。彩ちゃん。この女は、美穂。アスカちゃんの大学の同期ね。今は、下着やナイトウェアの専門店をやっている。私の店に置いてある下着は、美穂が作っている物が多いわ」

「え?下着?」

「そうよ。彩ちゃんっていうのね。下着は大事よ。特に女性は、仕事の時に下着が合わないと、肩こりだけじゃなくて、いろいろ不都合があるのよ」

「・・・。美穂さん?ぼくは、朝月彩。彩と書いて、さやと読みます。先輩。明日翔さんの婚約者です」

「大丈夫よ。警戒する気持ちは解るけど、私の恋愛対象は女性よ。アスカには恩義はあるけど、恋愛感情は皆無よ」

「はぁ・・・」

どうやら、ぼくの受難は始まったばかりのようだ。